耐震基準の歴史から見えるように、建築基準法は、その時々に起こる災害や事件などの反省や世の中のニーズなどを反映しながら、現在に至り、今後も改正を繰り返していきます。
一つの区切りでもある1981年の耐震基準の大改正から、「旧耐震」と呼ばれるようになってしまった「旧耐震」の建物とは、新耐震に比べ、売買の視点で見た場合、どんなリスクがあるでしょうか?
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不動産売却・売買の注意点⑭
新旧耐震基準の違いその2
新旧耐震基準の違いで一番大きいのは、当然のことながら、その耐震性能にあります。
設計上、様々な規制がかかり、筋交いや壁量など、旧耐震に比べ出来上がってからは見る事の出来ない、内壁と外壁の間の柱や面材に至るまで、大きな差があります。
耐震力の差
耐震力は、旧耐震の場合だと、震度5程度の地震に対しては、「倒壊または崩壊がない」程度の基準ですが、新耐震は「部材の各部が損傷を受けないこと」が条件となっています。
震度6~7の地震に対しては、新耐震では「倒壊または崩壊しない」ことが条件であり、旧耐震に至っては「何も定めがありません」。
大地震が発生した時の規制が何もない旧耐震基準では、建築販売する側の気持ち次第、という事になります。
旧耐震基準の建物と新耐震基準の建物の実績
よく比較されるのが平成7年1月17日に発生したM7.3を記録し、建物の全半壊合わせて約25万棟の甚大な被害をもたらした『阪神淡路大震災』での被害比較です。
この大地震での旧耐震基準の建物の被害状況がショッキングであったために、その年の年末には耐震改修促進法が制定され、既存不適格建物(要するに旧耐震の建物)について、積極的に耐震補強を進めるために施策も設けられました。
旧耐震基準建物の被害状況と言えば、大破以上が約29%、中・小破が約37%、軽微な被害や無被害は約34%でした。
新耐震基準建物では、大破以上が約8%、中・小破が約16%、軽微・無被害が約75%となり、旧耐震の大破が3倍以上、対して無被害が半分以下と、大きな差が出て、当然に被害者数もそれに伴い大幅に差が生じました。
大きな被害が出た要因としては、建物自体に共振が起こりやすい揺れ方であった事と、市街地直下の震源であり、瞬発的な縦揺れが大きかったことなどが原因とされています。
旧耐震基準では、そもそも大地震に対する規制が無い上に、瞬間的に大きな衝撃がかかる事への対策が施された設計を求められていなかった分、揺れが大きい地域においては壊滅的被害となりました。
一方で、東北太平洋沖を震源とする『東日本大震災』では、断続的な横揺れが激しかったわけですが、その場合では、新旧耐震基準の被害は、差が出るほではなかったとされています。
地震の揺れ方や、地域の地盤など、複合的な要因で、旧耐震は大きなダメージを受ける『確率が高い』ことは間違いないのですが、新耐震だから大丈夫、と誤解してもいけない、という事だと思います。
新旧耐震基準建物の見分け方
新耐震基準の施行日は1981年の6月1日ですが、その建物の何が施行日を超えていれば新耐震基準で建てられたと判断できるでしょうか?
確実な判断基準のひとつとして、『着工日』があります。
その建物の建築において、着工が施行日以降であれば、新耐震基準にのっとって建築されています。
ただ、着工日を現在から遡って限定された建築物について調査するのは不可能に近く、現実的に判断基準とするのは困難となります。
確実と言える、もう一つの判断基準は『建築確認申請』の受理された日、があります。
建物を建築する際に提出する申請書で、この『建築確認』が出ないと建築物は建築できません。
役所に保存してある、『建築確認概要書』『建築確認台帳記載事項証明』を見れば、建築確認がいつ出たのかを調査可能です。
また、建物を新築した際には、表題登記を行います。謄本には『新築年月日』が記載されていますが、こちらは『検査済証』の日付が記載されており、建物の建築が終了し、『完了検査』を受け、発行されるので、居住可能となった日付という位置付けです。
謄本上の新築年月日が1981年6月1日以降だとしても、着工日はそれより以前の事ですから、新耐震基準で建てられた裏付けとはなりませんので、注意しましょう。
新旧耐震基準のメリット・デメリット
では、新旧耐震基準の建物はその耐震性能以外にメリットやデメリットは生じるのでしょうか?
一番差別化されているのは、税制面での新耐震優遇措置です。
売買において重要となるのは、住宅ローン減税の対象となるか否かですが、木造住宅の場合は、そもそも築20年を超える建物は住宅ローン減税の対象となりません。
岐路となるのは、その場合でも、『耐震基準適合証明書』を取得すれば、住宅ローン減税の対象となるばかりでなく、登録免許税や不動産取得税、贈与税の減額、また地震保険の耐震診断割引などの優遇の対象となります。
住宅ローン自体への影響で言えば、木造住宅の場合、やはり築20年を基準に担保評価に雲泥の差がでる場合があります。ただ、そういった区別で評価を下さない金融機関もありますので、ご相談ください。
固定金利のフラット35においては、新築であっても適合証明は必要となります。これには耐震面での基準もありますので、審査に影響が出る場合があるでしょう。
不動産取得税では、1982年1月1日以降に新築された建物は『税法上の新耐震建物』とみなされます。これを満たしている建物は軽減の対象となります。
注意点としては、この税法上の新耐震基準の建物は、『税法上』であって、『建築基準法上』である保証はないという点です。
法の施行は前年1981年6月1日ですから、それ以前で『建築確認』が出た建築物でも、竣工が1982年の1月1日以降であれば、『建築基準法上』は『旧耐震基準』でも、『税法上』で『みなし新耐震基準』となる可能性があります。
木造住宅でも有り得ますが、工期の長いマンションなどでは当然に多くの『みなし新耐震基準』の存在の可能性がある事になりますので、注意が必要です。
また、新旧耐震基準では、耐震性能が上がった分、建設費も当然上がっています。
境目の時期に建築された特にマンションなどは、新耐震基準になる前に建設費用の安い、旧耐震基準で建築確認を得る為に駆け込み申請を行っているものも多く存在します。
1980年代前半に新築されたマンションについては、竣工日のみで判断するのは危険な場合がありますので、やはり注意が必要です。
他にも、新耐震基準建物の場合、火災保険の割引などもあります。
新旧耐震基準建物は、その基準日前後において、売買の建物評価も変わってきます。
旧耐震の建物でも、耐震補強工事などを施して価値を上げる事も可能ですが、そのまま販売価格や担保評価に反映できるかなどは、精査して判断するべきです。
ご売却のご検討の際は、土地の相場感よりも建物評価の判断は千差万別で難しいものですので、お気軽にご相談ください。
ご購入においても同様です。内覧などは必須ですが、建物の状態をお客様の目視だけで判断するのは非常に難しいかと思います。
事前に必ずご相談ください。どのような点に注目して建物・物件を見るのかのポイントを押さえておけば、ただ雰囲気で判断するのとは全く違う見え方となるでしょう。
新旧耐震基準を分かっていても、見方を間違えば意味をなさなくなります。
ご売却においても、買主視点でのメリット・デメリットを知らずに旧耐震建物の不可価値を上げようとむやみにリフォームなどしないで、まずはご相談ください。
昔の建物、相続したご実家や放置状態の空き家など、土地建物に潜んでいるかもしれないリスクを知る事で、売却時の想定外の負担を回避できるかもしれません。
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